基礎研究から研究者と一体となり新たな医療開発を進めています

 TRIは、新たな医療イノベーションに繋がる様々な分野の先端的な技術、基礎研究の研究開発の支援も行っております。これまで多くの研究者と基礎研究から臨床研究への研究開発を一緒に進め、経験・ノウハウを蓄積しており、非臨床開発マネジメントの支援をさせていただいています。

 

国立研究開発法人 科学技術振興機構(JST)事業

「戦略的創造研究推進事業のライフサイエンス分野における研究成果の持続的イノベーション創出基盤構築のための調査及び提案」

 2018年より、国立研究開発法人科学技術振興機構の支援により創出された研究成果・技術(以下、成果・技術)のライフサイエンス分野、特に医療分野への展開支援に係る事業(以下、本事業)をJSTから請負い、支援を行っています。 成果・技術は、理学、工学、薬学分野等の研究者より生み出されており、基礎研究段階から実用化段階まで多岐にわたっています。これらの成果・技術の中には医療開発を加速させることや、新たな疾患要因の発見につながることが期待できる基盤技術が多く存在しています。成果・技術を医療開発へ展開するにあたり、基礎研究の研究者と医療研究者が連携することが必須であり、それを実現することで医療開発が新たなステージへステップアップすると考えています。
 本事業の中で、数多くのJST研究者と医療研究者との共同研究等が検討され、AMED事業に採択されたシーズも出てくる等、成果・技術が医療研究開発のフェーズに進んでいます。また、個別の成果・技術の展開支援のみならず、成果・技術を医療研究開発トラックに乗せるための異分野融合型イノベーション創出基盤構築を目指し、AMED・JST・AROとの機関連携を提案する新たな“橋渡し”支援として本事業を推進しています。 JST研究者の支援の在り方について検討を重ね、個別シーズの展開支援、AMED成果報告会やARO協議会学術集会での医療研究者へ向けた成果・技術の紹介、JSTとAMEDとの機関連携に向けた協議等、様々なアプローチを試みています。
 TRIは、成果・技術の医療分野への展開支援を継続的に行うため、他の橋渡し研究支援機関や医療開発の経験豊富な専門家と連携する体制を整え、JST研究者支援を行うとともに、異分野融合型イノベーションの持続的創出基盤の構築を目指しています。



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【学会発表】ARO協議会第8回学術集会において「JSTライフサイエンス研究成果の医療研究開発への応用」セミナーを開催します。  

タキシフォリンを用いた非アルコール性脂肪肝炎
治療薬の開発

● 開発の経緯

 2018年11月28日に京都医療センター臨床研究センター内分泌代謝高血圧研究部の浅原哲子部長がTRIを来訪され、研究相談を実施したことが共同研究の契機となりました。浅原部長の高脂肪食誘導性肥満モデルマウスに対するタキシフォリン治療の実験データの開示を受け、NASHを対象に開発すること(「本プロジェクト」)が発案され、まず、特許出願することになりました(2019年6月25日特許基礎出願)。現在、非臨床試験及び第I相治験の準備を整えているところです。 この間、2019年6月日本国内の医薬品製造受託機関(CMO)を訪問して治験薬GMP調査を行うとともに、2019年8月にはロシアを訪問して原薬GMP調査を行い、いずれも各基準に則った製造が可能であることを確認しました。医薬品医療機器総合機構(PMDA)との相談は、2019年11月にRS戦略相談対面助言を終了しました。 

● 非アルコール性脂肪肝炎(NASH)
 近年、日本においても肥満の増加に伴い、非アルコール性脂肪肝(NAFLD)の有病者が、健診の約3割、2,500万人と急増しており、その約25%が非アルコール性脂肪肝炎(NASH)に、またその約25%が肝硬変に、更にその25%が10年で肝がんを発症すると推定されています。NASHは肝硬変・肝癌の最大のリスクであり、その予防・治療対策が喫緊の課題です。  

● タキシフォリン
 タキシフォリンはフラボノイドの一種で、酷寒のシベリアに群生するダフリアカラマツから抽出される低分子化合物です。ロシアでは脳血管循環障害、虚血性心疾患、末梢血管障害、2型糖尿病および合併症などを適応として使用され、欧州では健康サプリメントとして広く使われています。また、浅原部長らはタキシフォリンによる認知機能改善効果を見出しています。 本プロジェクトで使用するタキシフォリンは、PMDAとの対面助言で合意された、不純物限度値を設け、高度に精製されたタキシフォリン(「PharmTax」)としています。

● 研究成果
 高脂肪食誘導性肥満モデルマウスに対してタキシフォリンを12週間投与し、体重、肝重量・機能、脂肪合成・線維化遺伝子、及び病理学的観察を行いNASHの発症を検討しました。その結果、タキシフォリンは、耐糖能・インスリン抵抗性/脂質代謝に対する改善作用、褐色脂肪細胞による熱産生促進作用、肥満関連物質の血中レプチンの顕著な低下作用等によって、抗肥満・代謝調節作用を示した。NASHの指標としては、脂肪酸合成系を抑制し、肝臓への脂肪蓄積を抑制し、肝機能を改善するとともに、顕著な抗線維化作用を示した。これらの作用は、予防的にも治療的にも認められました。