新たな取り組みにも積極的に挑戦いたします

 学会や研究会と連携した疾患レジストリの構築、市販後調査を含めたリアルワールドデータの活用等、時代の流れに沿った新しい領域に積極的にチャレンジします。

 
 

学会/研究会主導研究 × 製造販売後調査(PMS)
のデータ連携

 近年のリアルワールドデータ(RWD)活用の流れの中、TRIでは、学会/研究会、製薬企業などと連携し、医師主導臨床研究と、PMSのデータ連携に取り組んでいます。
 これまで企業の実施するPMSと研究者が実施する観察研究の2つの研究が同時に実施され、同じデータをPMSと観察研究の2つデータベースに入力することもありました。この課題を解決する取り組み事例を2つ紹介します。


<事例1:研究会主導観察研究>
 TRIでは、研究会と協力して製薬企業と交渉し、製薬企業が実施するPMSから研究者が実施する観察研究に、データを随時転送するシステムを確立しました。これにより、研究者はPMSに一度入力した患者背景情報、治療情報、検査データ、有害事象等のデータを、観察研究のデータベースに再度入力する必要がなくなり、入力作業の省力化が得られています。また製薬企業にとっても、PMSに参加する医師のモチベーションが上がることで、症例登録の円滑化や、PMSデータの正確性の向上、研究者への問合せの減少、問合せへの回答期間の短縮が期待されます。

<事例2:学会主導レジストリ研究>
 希少疾患のPMSに学会が主導して作成した疾患レジストリを活用する取り組みは、研究者にとって疾患レジストリデータベースの構築・維持に必要な資金を製薬企業等から獲得する可能性が広がるとともに、製薬企業にとっても新医薬品等の上市後速やかに、希少疾患の患者をPMSに組み込むことができるメリットが期待されます。
 TRIでは、学会と協働して新たに開始した疾患レジストリの構築にあたって、新医薬品を開発している企業の要望により、研究者と共に疾患レジストリのPMSへの活用の検討を進め、PMDA相談等を実施しました。

 

神戸市の日本初ヘルスケアデータ連携システムの活用

 神戸市では、科学的根拠に基づく保健事業の推進による市民サービスの向上を目指し、医療・介護のレセプトデータや健診データ等を連結・匿名化した「ヘルスケアデータ連携システム」を新たに整備し、2020年11月より運用を開始している。本システムは、国民保健・後期高齢者・生活保護医療の受給者におけるレセプトデータ、健診データ、介護レセプトデータ、介護認定調査票、予防接種データ等、市民約60万人分の公的データが、個人単位で連結された状態で格納されています。このヘルスケア連携データは、研究目的であれば、学術機関に限定して無償で利用可能です。
 TRIでは、将来的な神戸市との連携を視野に「ヘルスケアデータ連携システム」を活用した臨床研究を開始しています。今後も神戸市のビッグデータを用いて公益性の高い研究を実施し、結果から得られる新しい知見を保健事業に反映させることを目指して、研究を進めてゆく予定です。

ハイリスク消化管間質腫瘍に対する完全切除後の治療に関する研究

 消化管間質腫瘍(GIST : Gastrointestinal Stromal Tumor)は、胃や腸の消化管壁の粘膜下にある未熟な間葉系細胞に由来する肉腫の一種で、人口10万人当り、1-2人が発症する、稀な腫瘍です。治療法としては、切除可能な場合は、手術が第一選択となり、その後長期に渡るイマチニブの治療が求められますが、適切な術後イマチニブ期間については明確なエビデンスはありませんでした。本研究では、初発GISTに対して治癒切除を行った患者さんのうち、modified-Fletcher分類(Joensuu)に基づいてHigh riskと判定された患者さんを登録し、術後アジュバント治療の実態と予後を調査し、イマチニブの適切な治療期間を探索した観察研究です。
 TRIは本研究において、研究責任者と協力し、プロトコルの立案から試験終了まで、研究事務局、データマネジメント、統計解析責任者等のデータセンターとして参加しました。
 本研究は、2012年12月より3年間の登録が行われ、国内128施設から541例のハイリスクGIST患者が登録され、その後5年間の観察が行われました。術後アジュバント治療期間3年群と3年以上の長期治療群において術後3年以後の無再発生存期間(RFS:Recurrence-free survival)を比較したところ、調整HR 0.56(95%信頼区間 0.39~0.78, p<0.001)となり、術後3年以上の長期のイマチニブの再発予防に対する有効性が示されました。さらに、術後イマチニブ治療期間別の術後イマチニブ治療中止後のRFS期間を比較すると、術後アジュバント治療期間によらず、アジュバント治療中止後の再発率は変わらないことが示されました※1



※1 Toshirou Nishida, et al. Long-term Adjuvant Therapy for High-risk Gastrointestinal Stromal Tumors in the Real World. Gastric Cancer. 2022 Sep;25(5):956-965

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【論文】ハイリスク消化管間質腫瘍(GIST)に対する 完全切除後の治療に関する観察研究(STAR ReGISTry)が、TRIの鍵村達夫を共著者としてGastric Cancerに掲載されました。