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平成16年度研究成果
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1.
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トランスレーショナルリサーチの情報整備と支援 |
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(1) 情報の整備と発信
医師がトランスレーショナルリサーチを実施する上での現状分析と必要な情報の整備を引き続き進行中です。とりわけ、平成16年度にはそれまでの研修会を更に発展させる形で「第3回トランスレーショナルリサーチ研修会」を開催しました。今回の研修会では、知財管理、契約、事業化、細胞加工などについても実際的な情報を提供し、講演内容を含むトランスレーショナルリサーチ方法論を凝集した冊子を参加者に配布しました。また、一連の研修会を通じ、科学性、安全性、倫理性が担保された臨床研究を行うためには、綿密なプロトコル、症例報告書、被験者への説明・同意文書、有害事象対応マニュアルを事前に準備する必要があることを、医師と研究者に周知しました。更に、第2回研修会で焦点を当てた血管再生療法について、わが国全体のコンセンサス形成を目指し、「血管再生療法コンセンサス会議」を横浜で開催しました(平成17年3月18日)。この会議には日本を代表する血管再生治療医をもれなく招聘し、現時点でのstate-of-the-artを提示するとともに、今後の進むべき方向性について活発な議論を交わしました。
また、TRIで培われたノウハウを全国に向けて発信するため、トランスレーショナルリサーチ方法論のエッセンスを研究部ホームページから情報発信し、次々に情報を追加しています。なお、当初はRR2002会員制Webサイトからの情報発信を考えていましたが、トランスレーショナルリサーチ方法論をより広く伝えるため、主たる発信プラットホームを研究部ホームページに変更しました。これによって、全ての国民がトランスレーショナルリサーチに関する情報にアクセスできるようになりました。とりわけ、研究部ホームページには、トランスレーショナルリサーチ研修会での発表資料、再生医療研究での中絶胎児利用に関する倫理問題、トランスレーショナルリサーチ実施にあたっての共通倫理審査指針などを掲載して情報提供を開始しました。
(2) 個別トランスレーショナルリサーチの支援
実効性あるトランスレーショナルリサーチの基盤を構築するためには、具体的な研究をモデルに妥当性を検証しつつ、それを進化させていく必要があります。そのため、我々が保有するノウハウを生かし、大学や隣接する先端医療センターで行われているトランスレーショナルリサーチの計画と運営を強力に支援しています。とりわけ、昨年度に開始された下肢血管再生に関する第T-U相試験については、平成17年3月末日で8症例が、歯槽骨再生に関する第T-U相試験については3症例が登録され、臨床試験は順調に進んでいます。同時に、同センターで行われる冠動脈再生に関する第T-U相試験が倫理審査委員会で承認され、臨床試験開始の準備が整いました。更に、脊髄再生(倫理委員会承認待ち)、造血細胞再生(倫理委員会申請中)、脳血管再生(プロトコル開発中)に関する第T-U相試験を慎重かつ綿密に準備しています。これらの研究支援を通じ、本事業で整備したトランスレーショナルリサーチ実施基盤を評価・検証していくことになります。
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2.
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臨床試験の運営支援およびデータ管理・解析 |
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アカデミアとしては事実上わが国唯一の全国的な臨床研究推進・支援センターとして、TRIには、高度に質管理された臨床情報が急速に集積しつつあります。とりわけ、我々が開発したWeb登録・追跡システムを利用することによって、薬剤や治療法の無作為割付けや
症例登録、追跡データ入力は大幅に省力化され、効率的に臨床データを収集することができるようになりました。また、症例の追跡データ入力の予告と督促を通知する自動メール配信システムのプロトタイプを開発し、平成16年12月より試験的な運用を開始しました。このシステムを全ての臨床試験に転用することによって、追跡データの入力忘れは解消され、最適なタイミングで臨床データが収集できるようになります。さらに、これらのITシステムを最大限利用することにより、多くの試験を比較的低コストで管理・運営できるようになり、質の高い臨床情報を短期間に蓄積できるようになりました。すなわち、臨床試験を効率的に実施する上での強力な支援体制が整い、実質的に機能し始めたと言ってよいでしょう。
本事業で当初に計画されていた2つの臨床試験については、精密かつ周到なプロトコルに沿ってWeb登録システムの運用とデータマネジメントを実施中です。同時に、平成16年度に新たに追加した3つの臨床試験についてもプロトコル開発を完了し、臨床試験の進捗管理/データマネジメントを行っています。これらの試験のみならず、当初の予想をはるかに上回るスピードで全国の研究者から支援を依頼されており、平成17年3月現在、再生医療第T-U相試験7本に加え、第T相試験1本、第2相試験21本、第3相試験13本、付随研究6本、合計48本の臨床試験について、プロトコル、症例報告書、説明・同意文書などの開発を行っています。とりわけ、試験デザインの決定、統計解析計画の作成、症例登録・追跡システムの開発など、臨床試験実行上の決定的な部分を我々が担当しました。
また、医師主導臨床試験を科学的かつ安全に実施するため、昨年度に初版を作成した「主任研究者の業務手順書」、「臨床研究実施計画書作成要領」、「説明文書・同意文書作成要領」、「試験薬概要書作成要領」、「有害事象発生時の報告・対応手順書」を本年度に改訂しました。精密なプロトコルの作成には高度の専門知識とノウハウを要しますので、研究者や医師のみで完成できるものではありません。我々は、標準的な書式に沿った雛型文書を完成させ、それをソフトウェア化する作業を行っています。本ソフトウェアを用いることにより、完成に何ヶ月も要していた綿密なプロトコルを短時間で作成することができるようになります。一方、TRI内においては、データの質管理と解析の品質を担保するため、「データマネジメントに関する標準手順書」や「統計解析業務に関する標準手順書」を新たに作成し、それを実行しています。加えて、平成16年度には小規模薬剤卸の免許を取得し、臨床試験被験薬を各実施施設へ配布する体制を整えました。
このように、TRIを中心として、わが国における医師主導臨床研究の実施体制が着実に整備されつつあります。
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3.
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大規模アウトカムリサーチの運営支援およびデータ管理・解析 |
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トランスレーショナルリサーチの推進には、比較対照となる現時点での実態(病期・病態別の年間患者数や治療成績)を把握することが必要であり、同時に、研究医師間の協力体制が欠かせません。その両者は、多施設が協力してアウトカムリサーチを行うことで達成され得ます。我々は、アウトカムリサーチの実施を強力に支援するWeb登録・追跡システムを完成させました。このシステムは様々な疾患にカスタマイズ可能であり、高い質管理下で効率的に臨床データを収集する基盤が整備されたと言えます。また、このような大規模アウトカムリサーチは、高品質な遺伝子研究の基盤にもなり得、従来の枠にとらわれない未来型の臨床試験モデルにつながるものです。今後は遺伝子解析研究の立ち上げを支援し、質の高い臨床情報とマッチさせてテーラーメイド医療の実現にむけて研究を進めていくことになります。
(1) 冠動脈疾患
進行中の冠動脈疾患アウトカムリサーチは、京都大学および関連病院において2000年1月〜2002年12月に冠動脈バイパス術またはインターベンションを施行された約15,000症例をプロスペクティブに管理・解析する事業です。我々が開発したWeb登録・追跡システムを介し、平成16年3月時点で既に約4,700例が登録され、追跡データも続々と集積されています(複数の国際会議で成果発表済み)。なお、本事業は、わが国初の大規模かつ高精度の心疾患登録であり、心疾患臨床試験の強力な組織と体制が確立しました。
(2) 脳卒中
脳卒中の再発予防に関する全国規模の臨床研究(目標症例数3000例、追跡期間5年、参加施設120施設)の運営を支援しています。我々は、この研究のプロトコル、症例報告書、説明・同意文書等の大半を作成し、また、我々が主導して開発したWeb登録・追跡システムを利用して研究が進められています。この研究のように、症例登録〜追跡までの全てのデータ収集をWebシステム上で行う研究は世界に類がありません。研究は順調に進行しており、平成17年3月末日現在で250症例の登録が終了し、追跡データ収集が進行しています。なお、この研究はわが国初の脳卒中大規模臨床研究であり、脳卒中予防法の革新につながるものと予想しています。
(3)がん
冠動脈疾患用に開発したシステムをカスタマイズし、がんに関する大規模前向きアウトカムリサーチの立ち上げを支援しています。既に、肺がん、胃がん、大腸がん、膀胱がん、乳がんについては研究組織の構築、プロトコル作成、汎用的Web入力画面の開発に着手し、なかでも肺がんについては大規模前向きコホート研究が先行してスタートしました。本研究では、各がん種について遺伝子解析研究を並行して行うことにしており、高品質な臨床情報に加え、手術摘出標本、DNA、RNA等の検体がTRIで集中保存・管理されます。この検体管理システムは、個人情報を厳重に保護しつつ、臨床情報との連結を可能にするものであり、世界的にも類がありません。肺がん大規模前向きコホート研究の開始に伴い、平成17年3月より本システムの運用が始まりました。
(4)アルツハイマー病
アルツハイマー病に関するアウトカムリサーチの立ち上げを予定していましたが、研究者層が予想以上に薄く、研究組織を編成するための調整を慎重に進めています。研究立ち上げの環境を整えるため、平成17年11月には第1回アルツハイマー病シンポジウムを計画しており、その準備作業が進行中です。
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4.
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包括的がん情報の配信 |
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がんの治療成績向上には、標準治療の普及とstate-of-the-artの達成が不可欠です。そのために、最新のがん情報を網羅する世界最大かつ最高品質のデータベースPDQ(Physician Data Query:医師向けがん専門最新情報)の完全な翻訳を実施し、PDQ日本語版をWeb配信しています。米国PDQは毎月更新されているため、日本語版をそれに合わせてアップデートしていかねばなりません。米国PDQにキャッチアップするために構築したXMLベースのWeb配信システムを利用し、日本語版の更新作業を行っています。その結果、PDQ日本語版が正式なPDQサイトとして米国国立がん研究所(NCI)に認可され、平成16年12月にはNCIとの正式契約を完了しました。また、昨年度にWeb公開したがん標準治療薬と支持薬に関するデータベースの更新作業を完了しました。更に、本年度には、一部の研究グループから提供されたがん治療成績情報や臨床試験情報をも追加し、「がん情報サイト」としてリニューアルオープンしました(平成17年2月1日)。加えて、わが国のがん臨床試験情報を世界に発信するため、TRIが支援するがん臨床試験の概略を英語化し、平成17年3月現在で既に4本の臨床試験を米国PDQサイトに掲載しました。
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5.
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DNA診断およびPET診断のデータ収集と解析 |
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(1) 大腸癌と子宮内膜癌を対象としたDNA早期診断法の開発支援
がんの制圧にはその早期発見と正確な診断が必要であり、大腸癌と子宮内膜癌に対する新規診断システムの実用化を支援しています。大腸癌については、便からDNAを回収してがん遺伝子を検出するもので、我々が主導して完成させたプロトコルに従い、大腸癌群:15例、非大腸癌群:15例の症例集積が完了しました。本研究によって、少量の便からDNA抽出が可能なことが明らかになりました。また、便中のヒトDNA量の同定や大腸癌に特異な遺伝子(p53、APC)の検出作業が終了しました。診断の実用化に向け、より大きな集団での診断可能性を検討する試験を計画中です。一方、子宮内膜癌については内膜組織から癌遺伝子を検出するものであり、それを簡便かつ診断に適した状態で採取する医療器具(シュアサンプル)の評価が終了しました。現在、第U相試験に相当する診断能試験が進行中であり、従来の細胞診に比し、シュアサンプルは癌と前癌病変の検出力が高いことが中間解析(101例)によって示唆されました。
(2) PETスクリーニングによる癌死亡率低下の検証
FDG-PET全身スキャンに他の画像診断を組み合わせた検査を健常人に実施し、1年毎の追跡の後、6年後にがん検出能、発生率、死亡率などを評価するプロジェクトです。本研究は、健常人を対象とする世界初のPETを用いた検診プログラムについてのプロスペクティブ研究であり、がんの早期発見・診断において多くの新事実を明らかにする可能性があります。平成14年度に開発したプロトコルに沿って平成15年8月より症例登録が開始されました。平成16年7月までに登録されたがん既往歴のない1197人を集計したところ、PET検査にて要精査となった受診者93名(7.8%)中、12名(1.0%)に癌が発見され、この結果を世界に先駆けて米国臨床腫瘍学会(ASCO)で発表しました。とりわけ、兄弟姉妹にがん既往歴を有する健常人でがんが発見された割合は4.29%であり、これは父母にがん既往歴を有する集団での発見割合0.58%に比べて高値でした。なお、本事業は浜松ホトニクスとの共同研究であり、追跡調査が進行中です。 |
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6.
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遺伝子−臨床情報統合データベースの構築 |
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疾患関連遺伝子の同定を目的とし、遺伝子情報と臨床情報を統合する枠組みの構築に取り組んでいます。本年度には、プロトタイプとして前年度に構築した多型データベースシステムと発現データベースシステムをより実践的な仕組みにすべく、設計の見直しと改良を行いました。これらのシステムは、統計的手法によって疾患関連遺伝子を探索する際の基盤になるものです。
(1)
多型データベースシステム
システム基本設計:SNPタイピング実験に使用したSNP情報、実験情報およびそのタイピング結果を維持・管理し、各検体のSNP毎のタイピング結果を解析に適したフォーマットで出力するシステムを開発しました。また、遺伝子情報を加工する際の人為的ミスを最小限に抑え、データの信頼性を確保するため、検査機器・機関から得られるSNPタイピング結果と付随する遺伝情報を人為的に加工せずに取り込むインターフェースを開発しました。これにより、取り込まれたデータはシステム内で統一ルールの下に解釈され、格納されます。また、各種遺伝子関連情報の整合性について詳細な確認を行うようにデータベースを設計しました。特に、遺伝子の塩基配列は2重螺旋構造であり、実験情報に含まれる塩基配列がどちら方向の配列であるのか把握する仕組みが不可欠です。このため、データベース登録時に配列の方向を自動計算し、不整合がある場合にはエラーや警告メッセージを出力するようにしました。
システム検証:システムの実運用性を評価するため、共同研究機関から提供されたSNPs解析用データを用い、データの登録機能と統計解析用データの抽出機能を検証しました。その結果、システムが正常に動作することが確認できました。また、データの質や整合性における問題点を適切に検出できることが確認されました。なお、検出された問題点として、SNP前後の塩基配列のタイピングミスがありました。その他、SNPの塩基が2重螺旋のどちらの配列上の塩基か判定できないケースが存在しました。文字列の羅列である塩基配列データを扱う上で、明確なポリシーに基づいてコンピュータで自動処理する機構を持たない施設では、類似した問題が頻発していることが予想されます。こうした問題は統計解析を行う上で致命的になり得るものであり、SNP情報の品質確保に本システムが有効であることが確認されました。
(2) 発現データベースシステム
遺伝子発現研究では、大規模な遺伝子発現データを管理するためのデータベースが不可欠です。これは、必要に応じて臨床データとマッチングでき、統計解析に供するデータを適切なフォーマットで抽出できるものでなければなりません。また、複数のプロジェクトのデータを統一した形でデータベースに収納することが望まれます。それによって、多くのプロジェクトのデータ管理が効率化されるだけでなく、再解析や同種の研究データを統合したメタ解析等の実施が容易になるからです。
本年度は、このような発現データベース作成の第一段階として、海外で実施されたリンパ腫と白血病等に関する大規模発現研究の公開データについてデータベースの作成を行いました。本システムでは、発現情報として、マイクロアレイの実験データを対象にして開発を行いました。とりわけ、論文で扱われた実験データを再解析するためのデータベースを構築しました。取り込む情報は、臨床情報、実験データの解析値、Probe情報に大別されます。今回は、リンパ腫を扱った論文3件、白血病を扱った論文3件を選定し、その実験データを取り込みました。なお、データベース構築にあたって注意を要した点はProbe情報の扱いでした。とりわけ、それぞれの論文のProbeのアノテーションはまちまちであり、Probe情報として統一することが困難なため、その扱いは今後の課題となります。また、Probeのアノテーションに含まれる各種ID等は、変更または削除されることがあり、これらの情報の更新についても更なる検討を要します。
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7.
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疾患関連遺伝子抽出・情報解析のためのツール構築 |
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(1) 関連遺伝子の同定やマーカー作成のための統計的手法のレビュー・開発
複雑な構造をもつ膨大な遺伝子データを収集し、診断や予後といった臨床情報との関連を評価する際には、高度な統計手法が必要です。しかし、この領域における統計手法は未だ十分に確立していません。これを確立するためには、解析の基本原則を確立し、その上で、実際の研究で生じた個別の問題に対して、具体的な手法・アルゴリズムを開発する必要があります。本年度には、米国最大の臨床試験グループ(South West Oncology Group:SWOG)の統計センターとの連携のもと、遺伝子発現解析における統計的原則についてまとめ、最近提案された手法についてレビューを行いました。結果については、Crowley J.J. and Pauler D.K. (ed.) Statistics in Clinical Oncology, 2nd edn. CRC Press, Boca Raton (2005) の一章として出版予定です。
また、新たな統計手法の開発に関し、以下に記す2つの重要テーマに着手しました。
- 複数の臨床変数があるときの関連遺伝子の同定:本テーマについては、膀胱癌のレトロスペクティブ研究データから膀胱癌のステージとグレードに関連する遺伝子を同定するため、多変量回帰モデルに基づく手法を開発しました。その際、200個の関連遺伝子が同定され、遺伝子発現データと臨床データ(ステージ、グレード)に関して15個の異なる関連のパターンを発見しました。
- 発現データを用いた予後予測における予後因子の考慮:本テーマについては、リンパ腫の予後予測において重要な予後因子であるInternational Prognostic Indexをとり入れた予測式構成法を開発しました。その結果、発現データのみを用いた場合よりも有意に高い予測精度を達成できました。その詳細については2nd Annual US/Japan Biostatistics Workshopで報告しました。
(2) SNPsの解析方法の開発
放射線医学総合研究所フロンティア研究センターが主導して行われているRadGenomicsプロジェクトのデータを用い、乳癌患者における放射線皮膚障害発現予測のためのSNPマーカーの探索的解析を実施しました。皮膚障害発現率には大きな施設間差があったため、施設を層とみなした解析手法を開発しました。また、単一SNPでは十分な予測性能が得られなかったため、複数SNPを組み合わせた予測スコアを構築しました。その結果、4施設全てにおいて良好な予測性能を示すスコアが構築されました。その詳細については、2nd Annual US/Japan Biostatistics Workshopおよび第3回トランスレーショナルリサーチ研修会で報告しました。
(3) 抗がん薬感受性関連遺伝子、予後関連遺伝子、病態関連遺伝子解析
膀胱癌や胃癌を含む各種癌について、プロスペクティブ臨床研究のプロトコル作成を支援しました。とりわけ、個人情報を厳重に保護しつつ遺伝子情報を収集・管理し、臨床情報とのマッチングを可能とする仕組みを確立しました。また、臨床データと遺伝子データの相関解析についても詳細な統計解析計画を策定しました。これより、遺伝子情報を扱うプロトコルを作成するうえでの十分なノウハウが蓄積されました。来年度には、集積した被験者情報をもとに遺伝子データの収集・管理、中間解析等を実施することになります。
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展 望
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1.
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トランスレーショナルリサーチの情報整備と支援 |
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本事業では、研修会や研究部ホームページなどを通じて医師がトランスレーショナルリサーチを実施する上でのノウハウを全国に向けて発信しています。とりわけ、トランスレーショナルリサーチ研修会や研究部ホームページ、或いは、研究者との直接対話(プロトコル作成支援)を通じ、医師によるトランスレーショナルリサーチ/早期臨床試験の道筋が整備されつつあると言ってよいでしょう。また、平成16年4月に発効した「トランスレーショナルリサーチ実施にあたっての共通倫理指針」の策定にあたっても我々のノウハウが大きく生かされました。本指針は、臨床試験を開始する際の倫理審査のあり方を規定したものであり、医師がトランスレーショナルリサーチを実施する上での科学性、安全性、倫理性の水準が大幅に向上すると考えられます。同時に、下肢血管、冠動脈、脳血管、脊髄、歯槽骨などに関する再生医療臨床試験が次々に立ち上がり、わが国における再生医療研究の成果が開花しつつあります。
ただし、トランスレーショナルリサーチの実施にあたっては、未だに解決すべき問題も多く存在します。とりわけ、社会的課題として、臨床試験に付随して発生し得る補償・賠償問題、被験者の費用負担の問題などを解決する必要があります。国家としては、薬事法の上位法として、被験者保護法や医療の質確保法を含む法整備を急ぐ必要があるでしょう。また、遺伝子や細胞製剤のトランスレーショナルリサーチを行う際に、その品質をどう確保するかについても体制の整備が急務です。しかし、治験で要求されるGMPを大学や医療機関で遵守するのは、資金的、技術的、マンパワー的に困難な現状であり、「研究機関におけるGMP」(institutional GMP)の概念が提唱されています。なお、これまで生物学的製剤の多くは院内製剤として臨床試験が行われてきたが、院外で製造された未承認物質を不用意にヒトへ投与すると薬事法に抵触する恐れがあり、注意を要します。同時に、院内製剤としての品質を確保するためには、各施設における質管理規定を策定し、それを遵守していく必要があります。加えて、ヒトへ投与することを前提に輸入される試験物について、製造企業や輸入企業がどこまで責任を負うかについてもコンセンサスが必要です。
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2.
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臨床試験の運営支援およびデータ管理・解析 |
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当初の想定をはるかに越えるスピードで全国から臨床試験/研究の支援を依頼されており、TRIを中心として、わが国における医師主導臨床研究の実施体制が着実に整備されつつあります。とりわけ、本事業で培われたノウハウにより、わが国における医師主導臨床試験の知的および実務的な基盤が整備され、大規模比較臨床試験の大幅なコストダウンと省力化が可能となります。とりわけ、TRIは、全国的なアカデミックデータセンターとして、効率的かつ高品質な臨床データの収集を引き続き推進していきます。今後は、ほとんどの臨床試験をWebシステム上で管理することにより、e-トライアル(電子臨床試験)を実施する上での標準的な運用体制を構築し、より効率的かつコストのかからない臨床試験の管理・運営を目指します。また、本年度に取得した小規模薬剤卸免許をもとに、臨床試験に特化した薬剤配送の仕組みを構築し、その運用を開始します。それによって臨床試験を実施する上で不可欠なインフラの1つが整うことになります。このことは、わが国の臨床研究の質向上と創薬・育薬の迅速化に寄与し、ひいては医療の向上につながるものです。
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3.
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大規模アウトカムリサーチの運営支援およびデータ管理・解析 |
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平成17年度には、15年度に始まった冠動脈疾患アウトカムリサーチの登録・追跡システムをスムーズに運用し、高品質なデータの集積を継続します。大量の臨床データをWebから収集する仕組みを構築したことにより、多施設共同臨床研究を効率的に実施できる体制が整いました。すなわち、本事業によって、高品質な臨床エビデンスが産まれる土壌が整備されたと言えます。また、主要ながんについてのアウトカムリサーチの立ち上げを支援し、がんについてのトータルレジストリーの構築を目指します。とりわけ、手術によって摘出した組織、DNA、RNAをTRIで集中保存・管理し、臨床情報と連結可能なデータ収集システムとその運用体制を構築します。更に、本事業の目標としてあげられているアルツハイマー病について大規模臨床研究の立ち上げを支援し、治療法の革新を目指します。更に、(旧)国立大学病院の電子カルテ導入を契機に、近隣3大学(京大、阪大、神大)の電子カルテから自動的または半自動的にコアデータを収集して蓄積し、様々な疾患の予後と治療実態の把握、治療成績の評価などに役立つシステムの開発に着手します。
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4.
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包括的がん情報の配信 |
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TRIが配信するPDQ日本語版によって、医師と国民は最新かつ確実ながん情報を自宅で入手することが可能になりました。とりわけ、医師がPDQを参照することによってわが国全体の医療水準が向上し、標準治療の普及が加速されると言ってよいでしょう。今後は、米国サイトの更新に合わせてPDQ日本語版を更新することが必須となります。同時に、我々が独自に掲載しているがん薬剤情報と治療成績情報をアップデートする必要があります。今後は、わが国における主要ながんの大規模アウトカムリサーチを立ち上げ、リアルタイムで各がんの治療成績が閲覧できるシステムの構築を目指します。更に、がん在宅医療情報の掲載、臨床試験情報の検索機能の付加していきます。加えて、わが国のがん臨床試験を米国PDQへ次々に登録できるよう、TRI独自の支援サービスを開始します。
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5.
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DNA診断およびPET診断のデータ収集と解析 |
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本研究により便DNA検診とPET検診の有用性が確立し、従来の便潜血/X線検診の時代から新たな時代に入ります。本事業で評価・検証するDNA/PET診断システムは今後の研究モデルになり得、本領域におけるわが国の研究体制の整備に役立つと考えられます。今後は、実施されている研究のデータマネジメントと進捗管理を行い、高品質なデータの蓄積と科学的に妥当な方法を用いたデータ解析を実施します。同時に、長期的ながん発生を予測する上でのDNA/PET診断の有用性を広範に検証していくことになります。
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6.
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遺伝子−臨床情報統合データベースの構築 |
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SNPタイピング情報の扱いには注意を要します。例えば、プライマーやプローブのシーケンスがあった場合、その塩基配列がNCBIのゲノムシーケンスに対してどちらの向きかを把握しておく必要があります。それを正確に確認・判断する仕組みがない場合、アレルがG/CのようなSNPにおいてそのタイピング結果が不明となります。その他、インサーションやデリーションがある場合の扱いを含め、考慮すべきことが多く存在します。本事業で遺伝子情報−臨床情報統合システムのプロトタイプを構築したことによってこうした情報確認と品質確保の仕組みが完成し、格納される遺伝子情報の信頼性が大幅に向上することになりました。
今後は、これまでに開発した遺伝子情報−臨床情報統合システムに改良を加え、疾患関連遺伝子を抽出するための大規模な遺伝子情報解析システムを完成させる。なお、改良にあたっては、独立行政法人放射線医学総合研究所、フロンティア研究センター放射線障害感受性関連遺伝子プロジェクトから提供されたSNPsデータと臨床情報を用いることになります。更に、格納されたデータをプロジェクト毎に管理するためのマネージャーインターフェースを導入します。マネージャーインターフェースの導入により、SNPタイピング等の解析の元となる遺伝子情報や疾患関連候補遺伝子情報、付随する臨床情報についてプロジェクト毎の管理が可能となります。また、NCBI等の公共データベースの情報が日々更新されることを考慮し、ローカルに構築した公共データベースの更新を自動化し、支援プロジェクトの遺伝子解析に常に最新の知見を反映できる仕組みを構築します。同時に、データベースの安全対策として、利用者に階層的な権限を付与し、柔軟かつ堅固な権限管理を実現します。更に、今後の研究プロジェクトによって得られる知見の一部を公開し、同様の研究に有効活用されるようにデータベースを管理・維持していきます。
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7.
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疾患関連遺伝子抽出・情報解析のためのツール構築 |
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今後、疾患関連遺伝子や抗がん剤感受性関連遺伝子の同定、並びに、診断・治療マーカー作成のための統計的手法の開発と評価を行いつつ、遺伝子発現データ解析手法の開発・評価を進めていきます。また、発表された遺伝子発現データの再解析、多発性骨髄腫や膀胱がん前向き研究の中間解析を行うことにより、抗がん薬感受性関連遺伝子、予後関連遺伝子、病態関連遺伝子の同定を進めていくことになります。
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総 括
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平成16年度には、トランスレーショナルリサーチの情報と環境の整備を更に発展させ、
全国に向けて情報を発信しました。また、当該年度に予定されていた委託業務をはじめ、
再生医療を含む多くの臨床試験・研究の支援を行い、医師主導臨床試験の基盤整備が着実に進行したと言ってよいでしょう。また、PDQ日本語版を核とする「がん情報サイト」を開設し、国民に包括的ながん情報の提供を開始しました。このように、TRIは、医師主導臨床研究の中枢的なアカデミックデータセンターとして実質的に機能し、情報発信基地として全国に情報を提供しています。今後は、残された課題を解決しつつ、わが国のトランスレーショナルリサーチの推進と臨床研究全般の水準向上に邁進することになります。
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