臨床研究情報センター研究事業  
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平成15年度研究成果

1.
トランスレーショナルリサーチの情報整備と支援
     
   

医師主導トランスレーショナルリサーチの全国的な水準向上を目指し、臨床研究情報センターにおいて「トランスレーショナルリサーチ研修会」を開催しました(第1回 平成15年7月26日、第2回 平成16年2月28日)。第1回研修会では、医師がトランスレーショナルリサーチを行う上での基礎的な方法論を研究者に伝え、それを補う形で第2回研修会を実施しました。第2回研修会では、トランスレーショナルリサーチを計画する際の臨床試験デザイン、補償・賠償問題、及び、血管再生療法などに焦点を当て、わが国を代表する研究者を招いて議論を交わしました。これら2回の研修会を通じ、トランスレーショナルリサーチの科学性、安全性、倫理性を担保するために不可欠な「試験物概要書」、「臨床試験実施計画書(プロトコル)」、「症例報告書」、「被験者への説明・同意文書」、「有害事象対応マニュアル」の作成について概説しました。

また、研究部が保有するノウハウを生かし、隣接する先端医療センターで進行中の下肢血管再生に関する第T-U相試験の計画と運営を支援し、臨床試験は順調に進んでいます。加えて、同センターで行われる体性幹細胞を用いた冠動脈再生の第T-U相試験、歯槽骨再生の第T-U相試験のプロトコル開発を終え、倫理審査委員会に申請済みです。

   
   


2.
臨床試験の運営支援およびデータ管理・解析
     
   

アカデミアとしては全国初の本格的データセンターとして、臨床研究情報センターには、高度に品質管理された臨床情報が急速に集積しつつあります。とりわけ、新たに開発したWeb登録・追跡システムを利用することで症例登録と追跡データ入力は大幅に省力化され、転記ミスはほぼ一掃されました。同時に、薬剤や治療法の無作為割付けが瞬時にできるようになり、臨床試験を効率的に実施する上での強力な体制が整いました。さらには、このWebシステムを運用することでより多くの試験を低コストで管理・運営できるようになり、質の高い臨床情報を短期間で蓄積するためのインフラが整いつつあります。

本プロジェクトについては、当初の予想をはるかに上回るスピードで全国の研究者から支援を依頼されており、平成16年3月現在、前述の再生医療第T-U相試験3本に加え、第T相試験1本、第2相試験16本、第3相試験10本、付随研究6本、合計36本の臨床試験について、プロトコル、症例報告書、説明・同意文書などの開発を支援しています。とくに、統計解析計画の作成や症例登録システムの構築など、臨床試験実行上の決定的な部分で本研究部は大きく貢献しています。

更に、医師主導型臨床試験を科学的かつ安全に実施するため、「主任研究者の業務概要」「臨床研究実施計画書作成要領」「説明文書・同意文書作成要領」「試験物概要書作成要領」「有害事象発生時の報告・対応手順書」を作成し、第2回トランスレーショナルリサーチ研修会の場で配布しました。同時に、わが国における臨床研究の全般的な水準向上を狙い、臨床試験論文やプロトコルの標準評価スケールであるTrial Assessment Procedure Scale(TAPS)を翻訳し、「試験評価手順スケール」として配布しました。加えて、米国国立がん研究所(NCI)が提供する「有害事象共通毒性基準(Common Terminology Criteria for Adverse Events Version 3)」を翻訳し、研究部ホームページ上に掲載しています。一方、臨床研究情報センター内においては、データの品質管理を徹底するため、各々の試験について「データマネジメントに関する標準手順書」を作成して実行しています。このように、臨床研究情報センターを中心としてようやくわが国にも医師主導臨床研究の実施体制が整備されつつあります。

   
   


3.
大規模アウトカムリサーチの運営支援およびデータ管理・解析
     
    トランスレーショナルリサーチの推進には、対照(リファレンス)となる現時点での治療成績を把握することが必要であり、同時に、研究医師間の協力体制が欠かせません。その両者は多施設が協力してアウトカムリサーチを行うことで達成されます。本研究部では、アウトカムリサーチの実施を強力に支援するWeb登録・追跡システムを平成15年度に完成させました。このシステムは様々な疾患に応用可能であり、高い品質管理下で効率的に臨床データを収集する基盤が整備されたと言えます。また、このような大規模アウトカムリサーチは高品質な遺伝子研究の基盤にもなり、従来の枠にとらわれない未来型の臨床試験モデルにつながる可能性があります。今後は遺伝子解析研究の立ち上げを支援し、質の高い臨床情報とマッチしたテーラーメイド医療の実現にむけて研究を進めていくことになります。

(2) 冠動脈疾患

進行中の冠動脈疾患アウトカムリサーチは、京都大学および関連病院において2000年1月〜2002年12月に冠動脈バイパス術またはインターベンションを施行された約15,000症例をプロスペクティブに管理・解析する事業です。平成15年度には、多施設から送られてくるデータを一元的に管理するWeb登録・追跡システムを完成させ、プロトコルに沿って症例の登録が始まりました。既に約600例が登録され、平成16年1月から追跡調査が始まりました。なお、本事業は、わが国初の大規模かつ高精度の心疾患登録であり、心疾患臨床試験の強力な組織と体制が確立しました。

(2) がん

冠動脈疾患用に開発したシステムを応用し、がんに関する大規模プロスペクティブ・アウトカムリサーチの立ち上げを支援しています。既に、肺がん、胃がん、大腸がん、膀胱がん、乳がんについては研究組織の構築とプロトコル開発が進んでおり、平成16年度中に登録開始を予定しています。本研究では、各がん種について遺伝子解析研究を並行して行うことにしており、高品質な臨床情報に加え、切除標本、DNA、RNA等の検体が臨床研究情報センターで集中管理・保管されることになります。この検体管理システムは、個人情報を厳重に保護しながら、臨床情報との連結を可能にするものであり、世界的にも類のないものです。
   
   


4.
包括的がん情報の配信
     
   

がんの治療成績向上には、標準治療の普及とstate-of-the-artの達成が不可欠です。そのために、最新がん情報を網羅する世界最大かつ最高品質のデータベースPDQ(Physician Data Query:医師向けがん専門最新情報)の完全な翻訳を実施し(全2,800ページ)、PDQ日本語版のWeb配信を行っています。PDQには、予防、検診、診断、治療、遺伝子情報、代替補完医療を含む最新のがん情報が包括的に網羅され、国民は自らが必要とする確かな情報を日本語で入手可能となりました。

米国PDQは毎月更新されており、日本語版をそれに合わせてアップデートしていく必要があります。それを可能にするため、それまでHTMLベースで構築されていたWeb配信システムを米国PDQと同じXMLベースに変更し、更新作業を効率化しました。その結果、11月にはPDQ日本語版が正式なPDQサイトとして米国国立がん研究所(NCI)に認可されました。12月からはPDQに含まれるがん標準治療薬と支持薬をデータベース化してWeb上に公開し、国民はがん医療に用いられる薬剤の情報をも自宅で入手可能となりました(http://www.ccijapan.com/)

また、わが国のがん臨床試験情報を世界に発信するため、研究部が支援する一部の試験について概略を英語化し、PDQ米国サイトへ掲載しています。更に、がん医療と市民を結ぶ新たな経路を創生するため、PDQに地域の在宅医療情報を検索する機能を付加していく予定です。今後は、わが国における主要ながんの大規模アウトカムリサーチを立ち上げ、治療成績をPDQにリンクして順次掲載していくことになります。

   
   


5.
DNA診断およびPET診断のデータ収集と解析
     
   

(1) 大腸癌と子宮内膜癌を対象としたDNA早期診断法の開発支援

がんの制圧には早期発見と正確な診断が必要であるため、大腸がんと子宮内膜がんに対する新規診断システムの実用化を支援しています。大腸がんについては、便からDNAを回収してがん遺伝子を検出するもので、私たちが主導して完成したプロトコルに沿って症例の登録が進んでいます。平成16年夏には症例の集積が終了し、年度末には解析結果が明らかになる予定です。なお、微量の便からのDNA抽出も順調に行われており、次の試験を計画中です。子宮内膜がんについては内膜組織からがん遺伝子を検出するものであり、それを簡便かつ診断に適した状態で採取する医療器具(シュアサンプル)の評価が終了しました。これについては、第U相試験に相当する診断能試験が進行中であり、従来の細胞診に比し、シュアサンプルはがんと前がん病変の検出力が高いことが中間解析によって示唆されました。

(2) PETスクリーニングによる癌死亡率低下の検証

がんの早期発見のため、FDG-PET全身スキャンに他の画像診断を組み合わせた検診を健常人に実施し、6年間追跡後にがんの検出能、発生率、死亡率などを評価する浜松ホトニクスのプロジェクトを支援しています。本研究は、健常人を対象とする世界初のプロスペクティブなPET検診であり、がんの早期発見と診断において多くの新事実を明らかにする可能性があります。昨年度に開発したプロトコルに沿って平成15年8月より症例登録が開始されました。

   
   


展 望

1.
トランスレーショナルリサーチの情報整備と支援
     
   

平成15年度には、研修会やホームページなどを通じ、医師がトランスレーショナルリサーチを実施する上での基本的なノウハウを全国に向けて発信し始めました。それによって医師が主導する早期臨床試験の基盤が着実に整備されつつあると言えます。平成16年度には第3回研修会を予定し、更なるトランスレーショナルリサーチ方法論を普及させていきます。しかしながら、解決すべき課題も未だ多く残されています。とりわけ、社会的課題として、トランスレーショナルリサーチに関連して発生し得る補償・賠償問題、患者さんの費用負担の問題などを解決する必要があり、同時に、遺伝子や細胞製剤に関するトランスレーショナルリサーチを行うにあたって試験物の品質をいかに確保していくかについても体制の整備を急ぐ予定です。

   
   


2.
臨床試験の運営支援およびデータ管理・解析
     
   

当初の予定をはるかに越えるスピードで全国から支援を依頼されており、臨床研究情報センターを中心として、わが国における医師主導型臨床試験の実施体制が着実に整備されつつあります。臨床研究情報センターは、全国的なアカデミアのデータセンターとして、効率的かつ高品質な臨床データの収集を引き続き推進して参ります。今後は、ほとんどの臨床試験をWebシステム上で管理することにより、e-トライアルを実施する上での標準的な運用体制を構築し、より効率的かつコストのかからない臨床試験の管理・運営を目指します。

   
   


3.
大規模アウトカムリサーチの運営支援およびデータ管理・解析
     
   

平成16年度には、前年度に始まった冠動脈疾患アウトカムリサーチの登録・追跡システムをスムーズに運用し、高品質なデータの集積を目指していきます。また、主要ながんについてのアウトカムリサーチの立ち上げを支援し、がんについてのトータルレジストリーの構築を進めます。加えて、手術によって摘出した組織、DNA、RNAを臨床研究情報センターで集中保存・管理し、臨床情報と連結可能なデータ収集システムとその運用体制を構築します。更に、本事業の目標としてあげられているアルツハイマー病について大規模臨床研究の立ち上げを支援し、治療法の革新を目指します。

同時に、国立大学病院の電子カルテ導入を契機に、近隣3大学(京大、阪大、神大)の電子カルテから自動的または半自動的にコアデータを収集して蓄積し、様々な疾患の予後と治療実態の把握、治療成績の評価などに役立つシステムの開発に着手します。

   
   


4.
包括的がん情報の配信
     
   

進行中のプロジェクトであるPDQ日本語版を、米国サイトの更新に合わせてアップデートしていくことが最優先の課題です。同時に、がんに関する薬剤情報をアップデートすることを予定しております。次のステップとして、わが国における各がんの治療成績をPDQ日本語版にリンクしてWeb上に公開し、医療関係者と患者さんに役に立つようにすることを考えています。そのために順次アウトカムリサーチを行い、リアルタイムで各がんの治療成績が閲覧できるようにしていきます。加えて、わが国のがん臨床試験を米国PDQへ公式登録できるよう、臨床研究情報センター独自の支援サービスを開始する予定です。更に、がん在宅医療情報と臨床試験情報の検索機能を付加し、最終的には包括的がん情報サイトとして、がん医療の全国的な水準向上を目指すことになります。

   
   


5.
DNA診断およびPET診断のデータ収集と解析
     
   

実施されている研究のデータマネジメントと進捗管理を行い、高品質なデータを蓄積していきます。同時に、科学的に妥当な方法を用いてデータ解析を実施し、次世代の検診・診断技術の確立を目指します。

   
   


総 括
     
   

平成15年度には、トランスレーショナルリサーチの情報整備に力を注ぎ、全国に向けて情報の発信を開始しました。同時に、再生医療を含む多くの臨床試験・研究の支援を行い、医師主導型臨床試験の基盤は確実に整備されつつあります。加えて、PDQ日本語版を核とした包括的がん情報サイトの構築を進めております。このように、臨床研究情報センター 臨床試験運営部は、アカデミアの中枢的な臨床研究データセンターとして実質的に機能し、情報発信基地として全国に情報を提供しています。今後は、残された課題を1つ1つ確実に解決しつつ、本研究事業を更に拡張し、展開していくことになります。